オトナの雰囲気トルコルポ

高橋由佳利,
「トルコで私も考えた」第3巻,
ISBN 4-08-864579-0,
集英社,
2002.8.24 第1刷.

 私のデフォルトは少女漫画である。ものごごろついて初めて購入した漫画は,てんとうむしコミックスの「ドラえもん」第12巻であった。が,どうした訳かその後は,りぼん(集英社)→りぼんオリジナル→別冊少女コミック(小学館)→花とゆめ(白泉社),と少女漫画遍歴(という程ではないか)を重ね,現在ではその延長上に位置するFlowers(小学館)とメロディ(白泉社)を定期購読するに至っている。りぼんを読んでいたのは,多分,中学生から高校にかけての時期で(うろ覚え),池野恋が「ときめきトゥナイト」を,一条ゆかりが「有閑倶楽部」の連載を開始し始めたあたりから始まって,谷川史子がデビューした直後に終わっている。思春期の性格形成時期に慣れ親しんだ作家は脳髄に染みこんでいるらしく,今でも書店で「小田空」なんて単語を見かける,とつい気になって買ってしまう。ここで取り上げる高橋由佳利もそんな骨身に染みた作家の一人である。このエッセイマンガが店頭に並んでいるのは知っていたのだが,どういう訳か今まで手を出していなかった。今回,第3巻が出版されたのを期に,ようやっと購入したという次第である。
 本書はYoung You(集英社)に長期(10年目!)連載中のエッセイマンガをまとめたもので,1998年から2002年分にあたる。半年前には既に単行本にする分量に到達していたが,材料に使う写真を撮影するため,息子さんと共に旅行ができる夏になるまで待ってもらった,ということを著者はあとがきで述べている。運がいいというか,ちょうどFIFA World Cupが終わる頃にぶつかっており,最後の収録作品はその話題を取り扱っている。意図せざる遅延のおかげとはいえ,営業的には誠にありがたいことである。そーだよなー,トルコって第3位まで登りつめたんだもんなー。日本を負かしてねー。ちぇっ。
 第1巻,第2巻はまだ未読なので,以前の経緯は不明なのであるが,どうやら著者はトルコで現地の方と結婚して息子さんを加えて3人家族となり,今はもっぱら日本で暮らしているようである。「高橋由佳利がトルコに行ってしまった」という情報は得ていたが,そっかー,そーゆーことになっていたんですねーと,時の流れの速さにため息をつくばかりである。
 私のトルコについての知識は,ずっと昔に「ケマル・パシャ伝」(新潮選書)を読んだ,という程度である。オスマン・トルコ帝国が退潮し,ケマル・パシャによってヨーロッパ的な政教分離の近代国家に生まれ変わった,ということは知っていても,その後のことはあまり知らない。せいぜい,日本のゼネコンが海峡に橋を架けたとか,クルド人組織がイラクとの国境付近で悶着を起こしているとか,EUに加盟したいと念願しているがまだ叶っていない,ということぐらいである。世間一般のトルコに関する知識も,まあこんな程度でありましょう。トルコの首都はイスタンブールだと思っている人も結構いるんじゃないか。
 従って,「トルコ」という語句にオシャレな感覚を持つことはあんまりないだろうし,日本の皆様がトルコという国を知りたいと強く念願しているとも思えない。よって,「トルコ」というブランドイメージで本書がバカ売れすることは,今のところ期待できない。私とて,高橋さんが著者でなければ購入したりはしなかった。
 そう。本書は高橋由佳利がトルコについてのあれこれを描いていることに価値がある。いや,そのことに「しか」価値はない,と言っていい。エッセイマンガって,力の抜けた白い絵で,しかもページ数が短いから楽に描けそうに思えるかもしれない。確かに,週刊ペースで毎回何十ページも流線の多い熱血マンガを描くよりか,エネルギーは少なくて済むだろう。しかし,「エッセイ」マンガあるが故に,そこには著者の人間性がばっちりと浮き出てしまう。力の入ったストーリーマンガでも,著者のあとがきが読むに耐えない,ということだってある。気の抜けたいい加減なエッセイ程,見苦しいモノはない。さらさらと手早く描けばいいというものではない。面白いエッセイを描くにも才能は不可欠である。
 高橋由佳利にはそれがあった。彼女のストーリー物には,坂田靖子にも共通する天空に突き抜けたユーモアがあった。これは意図して作り上げられるものではなく,体質からにじみ出てくるようなものなのだろう。これが私には心地よかった。本書はトルコについてのあれこれを描いたものであるが,むかぁしの日本には存在した大家族的な雰囲気が色濃く残るお国柄が高橋の体質に合っていたのであろう,これを読んでいるとベタベタした愛情関係がわらわらと登場してきて,寂しい日本の中年男の私としては誠に高橋が羨ましいのである。
 この本は情報量が多くて,読了するのにも時間がかかる。トルコ方面への旅行のお供に携帯し,機内でつらつら眺めると退屈せずに済むだろう。A5サイズの割と重い本なので,機内持ち込みの際には手荷物の重量オーバーに気を付けるべし。


by Takayosi Kengo

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